恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
(そうよ、こんな状態で助かったら奇跡だわ。もし助かったら、今年の運、全部使い果たすだろうな)
心の底からそう思った。
 そんな時突然、グルグル巻きにされた私のおなかの上に、誰かの手が乗った。
「えっ?」
紙のように色が白い、全く血の通っていない手。小指が私の見える場所にあるところから推測して、左手だろう。『誰の手だろう?右手はどこにあるのかな?』と思った瞬間、頭上五十センチの高さまで来ていた魔界の住人の手が、カメラのフラッシュのような眩しい光に切り落とされた。切り落とされた手はバラバラと魔界へ落ちていった。
(…この光、もしかして!)
ハッとした次の瞬間、手を切り落とされ怒りに手をうねらせる住人の間を縫って、残りの右手が私の体の上に現れた。手に筋が浮かび力が入ったと思えば、自信に満ちた顔のミチカがはい上がってきた。先ほど魔界へ引きずりおろすために分厚く巻き付いた手は、一本もない。全て払い去ったのだ。
 魔界の住人は怒りをぶつけるよう、ミチカへ襲いかかった。しかしミチカは指先から発した光で次々と切り落とし、私の体を台にして地上へはい上がって行った。
『春乃サン。今、助ケルカラ』
「えっ?あ、うん…」
はい上がると私の体の上に手をかざし、触れることなく、魔界の入り口から離れた安全な場所へ運んでくれた。森田や父、母は、狐につままれたような顔をして見ていた。
 ミチカは指先から光を発し、さらに襲ってきた住人の手を切り落とすと、今度は母を助けてくれた。私の隣に運んでくれば、私と母の体に巻き付いた手を光で焼き切ってくれた。入り口にいる住人はミチカの力に恐れをなしたのか、襲ってこない。切られたままいた。
 私は森田に、母は父に支えられ起きあがると、不思議な気持ちでミチカを見た。数十分前まで命を狙われていた相手に助けてもらえるなど、考えてもいなかった。
 しかしミチカは、心境の変化を物語るよう、穏やかな表情で私達を見た。先ほどまでの鋭いナイフのような雰囲気はどこにもない。彼女を見ていたら、私のこわばった心も穏やかさを取り戻した。
「ありがとう、ミチカ。助かったよ」
『コレデ借リハ、無クナッタ』
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