恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
与えられた許し
 店内は、重苦しい空気が立ちこめだしていた。床の上には遺体が七体も横たわり、椅子やテーブルは壊れたり倒れたりし、壁は人型にボコボコとヘコんでいる。どう見ても、店に未来は無さそうに感じる。ダメ押しのように、窓ガラスは全て割れ、外には再び野次馬が集まりだしていた。私達は、すっかり檻に入れられた動物園の動物状態。好奇の視線がグサグサと突き刺さった。
 ふいに、重苦しい空気を破るよう、警備会社の車が店の前に止まった。トラブルが起きると自動的に店舗のシステムが通報し、警備員が大至急駆けつけてくれる契約を結んだ会社の車だ。車には体格のいい男性二人が乗っていて、シートベルトをはずすと、駆け足でやって来た。
 私は一瞬『ヤバイ』と思った。殺した犯人は、ミチカと魔界の住人。しかし犯人の一人はさっき成仏し、他は魔界へ引っ込んでしまった。当然、呼び出せない。警備員の彼らの魂も取られてしまうだろうし、何より特別な力が無いので、呼び出せない。
 しかしこのままでは、私だけでなく、森田や父、母まで殺人を犯したと疑われる可能性が高い。
(どうしよう…本当に犯人は『悪霊』なのに。証明できない!)
森田も父も母も、困惑した面持ちでいた。私と同じ事を考えているに違いない。
 私は瞬時にして思った。
(こうなったら…逃げるしかない!)
「みんな、私と一緒に来て!」
私は事務所へ通じる扉へ向かって全力で走った。扉を抜けると、表へ出る裏口がある。泊めてもらった時出入り口として使い、ミチカが来た時、逃げるために使おうと思っていたものだ。
「ちょっと待った!」
しかし、簡単に捕まってしまった。ミチカや魔界の住人と戦ったため、考えている以上に体力が落ち、体のキレが悪かったようだ。
「放してっ!私達はその人達のこと、殺していないっ!」
「俺たちは警備員だ。警察じゃないから君を逮捕できない。でも、なぜこんな事になったのかは知らなければならない。それが仕事だからね」
警備員は暴れる私をしっかりと押さえつけ、森田や父、母にも逃げ出さないよう言った。もう一人の警備員は会社へ状況を報告し、警察へ通報した。
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