恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
(終わった…私の人生、終わった…きっと警察に行ったら殺人扱いされて、少年院へ送られるんだ。もう、普通の高校生に戻れない!)
五分ほどすると、パトカー一台と、白いタクシーが一台、警備会社の車を挟んで止まった。
 パトカーは停車を知らせるウインカーをつけると、中から二人の警官が急いで降りてきた。どちらも警備員よりいくぶん小柄な中年の男性だ。店内の惨状を見ると顔をしかめ、『こりゃ、ひどいなぁ』と言った。遺体のそばに来ればひざまずき、手を合わせ『ナムアミダブツ』と呟き、検証を始めた。
 警官から数秒送れて到着したタクシーから降りてきたのは、店長だった。上に薄手のジャンパーをひっかけ、ジャージをはき、靴下無しでサンダルを履いた彼は足元がフラフラして、一杯飲んだのか顔が赤かった。晩酌をしながら夕飯を食べていたところに、
警備会社から連絡が入り、慌てて駆けつけて来たのだろう。ただ気の毒なほど狼狽していて、これからの厳しい展開を考えると申し訳なくなった。
「い、一体、何が起こったって言うんだ!」
店内の惨状を見た彼は、声を裏返して叫んだ。その場にヘナヘナと座り込んだかと思えば、呆然と宙を見つめた。あまりのひどい損害に、ショックを受けたのだろう。
 サービス産業にとって汚れた汚いイメージは、もっとも避けなければならないもの。しかし店の外には野次馬が集まり始め、テレビ局が来るのも時間の問題と思われた。このような状況で黒いイメージを払拭するのは、とても大変だろう。建物への損害もさることながら、客足も大打撃を受けるに違いない。
 渦中の私がクビになるのは当然だが、店長がクビになる確率も同じぐらい高そうだった。
 そんな店長を見ていたら、だんだんかわいそうになった。自分の立場も忘れ、警備員に捕まったまま『大丈夫ですか?』と声をかけると、店長は一瞬ピクリ、と体を震わせた。そして、私を食い入るように見た。すごい形相だったので、てっきり『おまえが、やったのか!』と怒鳴られるかと思った。だが少しも怒鳴らず、『もう終わりだ…、この店は、終わりだ…』と苦しい胸のうちを語り、また下を向いただけだった。
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