恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
 その後、さらに応援のパトカーやワゴン車がやって来て、店の前に『立ち入り禁止』の黄色いテープが貼られた。車から、背広を着た地位の高そうな警官や、紺色のつなぎを着た鑑識の人と思われる男性や女性が集まれば、まるでドラマのような光景が展開されていった。
 カメラで現場の写真を撮る人、遺体の周りに白いテープを貼り、手や足、頭の側に番号の付いた札を置く人、白い手袋をはめて遺体の様子を見る背広を着た警官。皆、黙々と作業をこなし、私達へ声をかけたりしない。一番若いと思われる警官と共に、部屋の隅で指示を待っていた。
 しかし十分後検証の邪魔になり、店長共々、事務所へ移動し待つ事となった。警備会社の人は、応援の警官が到着すると私達を引き渡し、さっさと帰っていった。できることなら私達も帰りたかったが、事情聴取を受けなければならないので断念した。
 事務所の中はいつになくシーンとし、重い空気に包まれた。誰もしゃべろうとしない。どうしてもしゃべらなければならない事…『トイレに行きたいのですが』ぐらいしか言えない。そしてそれに対し、文句を言う人もいなかった。七人も亡くなったので、みんなかなり落ち込んでいたのだ。
 三十分ほど待っていると、背広を着た警官と一緒に、一番最初に駆けつけた制服姿の警官が私達を迎えに来た。いよいよ警察へ移動し、取り調べを受けるのだ。
 私と森田は、一番最初に駆けつけた制服姿の警官に、父と母は背広を着た警官に連れられ、事務所を出る事になった。事務所には店長一人が残るが、誰も警官はやって来ない。後から駆けつけてきたので、問題ないと判断されたのだろう。
 店長はひどく落ち込んで、顔が真っ青だった。目もうつろで、今にも倒れそうだ。私は後ろ髪を引かれる思いで事務所を出ようとした。
 しかし後一歩で歩みを止め、振り返り、店長を見た。どうしても言っておきたい事があったのだ。
「あの…店長。私、これから警察へ行きます。後は、お願いします」
「ああ」
「…お店、こんな風にしちゃってすいません」
「ああ」
「それじゃあ」
「ああ…」
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