恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
(人が沢山死んだのに、かわいそうだって思わないんだ。何て冷酷なの!自分の大切な人が死んだら、きっと気が狂ったように叫ぶだろうに。他人はネタとしか思わないの!)
しかし、思いを口にする事はできなかった。こうなる原因を作ったのは私だし、昔の、ミチカと出会う前の私なら、ワガママで自分が幸せになる事ばかり考えていたから、野次馬の中にいて同じ行動をしていたかもしれない。とても注意できなかった。
 下を向いたままパトカーまで来たが、乗る時、もう一度店の様子を見ようとした。しかし増えた野次馬の頭に邪魔され、よく見えなかった。
「さ、行こう。早くしないと、野次馬に捕まって動けなくなる」
「はい」
野次馬達は店だけでなく私達の方にまで興味を持ちだし、これまで起こった事を根掘り葉掘り聞き出そうと、携帯電話片手に近寄ってきた。私は慌てて後部座席に乗り込み森田の隣に座ると、ドアを閉めた。これ以上、どうもできない。流れに身を任せるしかなかった。
 父と母は応援で来たパトカーに乗った。警官も合わせると、一台で乗り切れなかったのだ。
 パトカーになんて一生乗る事がないと思っていただけに、とても不思議な気持ちだった。シートは手入れが行き届き、とてもキレイで、クッションも適度に利いている。大きめのセダンは室内空間が広く、エンジン音も静かだ。運転しているのが警官のおじさんでなければ、お嬢様になった気分だろう。こんな状況ではなく、私の家へ遊びに行くと言うのなら、話しも弾むだろう。
 私も森田も、一言も話さず黙っていた。警官のおじさん達も、何もしゃべらない。そして私達は、それを甘んじて受け入れるしかなかった。
 警察署に着くと、午後九時を回っていた。連れてこられたのは、街で一番大きな警察署。遅い時間にもかかわらず、室内には大勢の人がいて驚いた。
 ここで私達は一時間ほど事情聴取を受けた。ただ、ドラマで見るような狭い個室に入り、警官と一対一で向かい合い厳しい追及を受けると言うものではなく、三十畳ほどの広い空間を背の低いつい立てで仕切った、その一つで行われた。おまけに、私と警官のおじさんを隔てているのは、白い電話や飲みかけのお茶が入った湯飲みの乗った、灰色の事務机だった。よく見れば透明なデスクマットの下には、娘や息子と思われる子供と写っている写真が二、三枚挟めてあった。

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