恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
(緊張感が薄れそう…)
「お茶です」
「あ、どうもすみません」
二十歳くらいの婦人警官のお姉さんが、お茶まで出してくれた。これではまるで客扱いだ。隣をのぞき見れば、森田も困惑した顔で座っていた。同じ気持ちらしい。
 そんなわけで、一時間に及んだ事情聴取は、思いの外和やかに進んだ。人が亡くなっている関係で事実確認のため、その後何度も足を運ばなければならなかったが、怒鳴られたり、机を蹴飛ばされたり、嫌味を言われる事は無かった。
 警察署を出たのは、午後十時三十分頃だった。質問に一生懸命考え答えていたのでわからなかったが、思ったより時間が経っていた。
 慣れない事が続いたせいか、私だけでなく森田も、父も、母も、かなり疲れていた。特に森田は迎えに来た父親と母親に『警察にお世話になるなんて恥ずかしい!』と叱られ、さらに疲れたように見えた。森田の能力のおかげで助かった私は必死にこれまでの経緯を話したが、彼の両親は森田の力をけっして認めようとせず、当然ほめようともしなかった。事件へ巻き込んだ私共々、説教しただけだった。
「ごめんね、森田君。こんな目に遭わせて」
「ううん。君を助ける事ができて、本当によかったよ」
「今日は帰って、ゆっくり休んでね」
「じゃ、また明日」
「また明日」
話し終えると、森田は父親が運転する車に乗り、帰った。私と両親はタクシーに乗り、バイト先に寄ってから帰る事にした。問題の携帯電話を入れた鞄を、起きっぱなしにしていたのを思い出したのだ。このまま放っておくわけにはいかない。
 タクシーに乗ると、ふいに森田と両親のやり取りが浮かび、悲しくなった。森田の能力はすばらしいものなのに、彼の両親は理解しようとしない。考えると、自分の事のように辛かった。
(早く森田君の力を認めてくれるといいね。上手に使えば、私のように苦しんでいる人を沢山救えるだろうから)
悲しみに暮れていると、十分ほどでバイト先に着いた。現場検証はまだ続いており、店内は営業しているかのように明かりが着いていた。
< 177 / 202 >

この作品をシェア

pagetop