恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
「私は、もうほったらかしにしないと誓うわ」
「父さん、母さん…」
私は目頭が熱くなった。それはずっと望んでいた言葉。切望していただけに、とても嬉しかった。
「私の方こそ、ごめんなさい。父さんや母さんの言う事を聞かずに、ワガママばかり言って。これからは、ちゃんと言う事を聞くようにする。親孝行する」
言っている間に、目から涙が溢れてきた。
「ゴメンなさい、ゴメンなさい…父さん、母さん…」
手の甲で何度ぬぐっても、次から次へと溢れて来る。まるで、心の中にあった大きなしこりが溶けて流れ出すかのように。
 父や母を見れば、二人とも泣いていた。父は男だし、母は負けん気が強いから、泣いている姿を見た事は一度もない。
 そんな二人が泣いている。初めて見る涙に驚きつつも、今言った二人の言葉は偽り無いものだと実感した。
「さあ、これからは、仲の良い親子として生きていくぞ。いいな」
「私は、過干渉と言われてもいい、ウザイって言われてもいい。春乃をかまって、かまって、かまいまくるわ。そして、たまに父さんをかまうわ」
「俺は『たまに』なのか!もう少し、かまってくれよ!」
私達家族は久々に笑い合った。ドラマに出てくる幸せな家族のように。
 こうしてやり直す事を誓うと、笑顔で話し終えた。私は心の中に沢山の幸せを満たし、自分の部屋へ入った。
 その夜、テレビは見なかった。チャンネルを変えているうち事件のニュースを見て、再び心をわずらわされるのがイヤだった。
 歯を磨き寝る準備を終えると、机の前に立って通学鞄を見つめた。警察から帰ってくる途中、店に寄って取ってきた鞄だ。
 中から携帯電話を取り出すと、手に持ってしばらく眺めた。眺めていると、これまで携帯電話と共に過ごした楽しい事、嬉しい事、悲しい事が浮かんでは消えた。ミチカの一件も含め、本当に色々な事があった。
(一年間、ありがとう。あなたのおかげで、毎日が楽しかったよ)
再び涙がこみ上げてきた。分かれるのは、寂しかった。
(でももう、サヨナラしなきゃ。また辛い目に遭うのは、イヤだから)
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