恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
再び受話器を持つと百円玉を入れるいと、ノートを見ながら一生懸命番号を押した。ボタンを一つ押すごと、緑色のボディー上部にある液晶ディスプレイに数字が表示されていく。表示される数字が増えるごと、達成感が増した。しかし必死である事には代わりなく、無意識のうちに数字を口走っていた。
 全部押し終わり呼び出し音が聞こえてくると、ホッとした。回線がつながり聞き慣れた声の『もしもし?』を聞けば、嬉しくなった。
「おはよう、香。元気?」
『あっ、ハルちゃん!公衆電話って表示されているから、誰かと思った』
「ごめんね、驚かして。まだ携帯電話の機種変更してなくてさ、公衆電話からかける事にしたんだ」
さすがに携帯電話を壊したとは言えなかった。
『家からは電話できなかったの?』
「うん。親に聞かれたくない事を聞きたくてさ。あえて公衆電話を使う事にしたんだ」
『えっ、何?すごい事なの?』
香は明らかに動揺していた。
「大丈夫、そんなにビクビクしないで。たいしたことじゃないから」
『…で、何?』
「ほら、昨日の朝さ、電話くれたじゃない?黒いモヤのかかった人に襲われそうになって、ものすごく怖かったって。その後、どうなったのかと思って」
『ああ、あれね』
急に香の声は明るくなった。事は良い方へ運んだらしい。
『実はあの後、ミチカって人から何通かメールが来て、開くたびに黒いモヤのかかった人に襲われそうになったの。どうにか捕まる寸前で逃げたんだけど、本っ当に怖かった!だから三通目から開かないようにしたんだけど…突然、不思議な事が起こったの』
「不思議な事?」
『そう』
ふいに、シーンとなった。香は電話を切ったかと思った。
 とたん、お金が切れた事を知らせるピーッ、ピーッ、と言う警告音が鳴り、慌てて百円を追加した。百円を消費するのは、あっと言う間だった。携帯電話への通話料は高いらしい。
『大丈夫、ハルちゃん!』
「ああ、ごめんね。バタバタして。お金が切れただけ。お金入れたから続き話して」
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