恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
 十七歳で高校二年生の女子高生をやっている私、今川春乃は、少しイライラして外の景色を眺めた。今日は雨。ただ今、数学の授業中。授業が始まってまだ十分しか経っていないが、すでにかなりイライラしていた。『あーっ、もぉーっ!』と大声で叫びたかった。
 理由は、勉強がわからないからではない。携帯電話をイジれないからだ。
 勉強なんて、多少わからなくったってかまわない。良い大学へ通う気も、良い会社に就職する気もないから。それより今、携帯電話をイジれないほうが辛い、苦しい、気が狂いそうだ。
 気がつくと、右足のつま先で床を激しく叩き、貧乏ゆすりをしていた。手で頬杖をつけば、右手の人差し指で机を『カカカカカカカカカカカカカカカカカ!』と小さく連打した。すると、周りにいるクラスメイトが迷惑そうに見て『うるさい、静かにしろ!』と目で訴えた。
「おい、今川。静かにしろ、授業のジャマだ!」
「はぁーい!」
数学の男性教師にまで注意された。しかし、イライラは収まらない。時間が経つごとひどくなっていく。
(このままじゃ、メル友無くしちゃうかもしれない。…そんなの、いやっ!)
私は机の上につい立て代わりに教科書を立てると、薬物中毒患者が薬物を欲するように、机の中へ手をつっこんだ。慌てて携帯電話をわしづかめば、すばやく引っ張りだした。二つ折りにしている本体を開くと、出来るだけ音を立てないようメールをチェックした。操作する時の音は、鳴らない。こういう時のために、休み時間にマナーモードにしておいたから。
 メールをチェックしていたら、イライラは波が引くようにスーッと収まった。そして嬉しさとワクワク感が胸の中を占拠しだした。教師がニラんでも気にしない。自分の欲求を満たす方が先だった。
 席は前から五列目で窓側の席。前に座っているのは背の高い男子なので、彼に隠れるよう携帯電話をイジれば、教師に見つかりづらい。チクったりする嫌な奴もいないので、適当にノートを取り適当にうなずいていれば、ほとんど問題ない。
 
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