恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
 仁王立ちでニラみつけていると、青年はしょぼんとなった。鞄を拾い上げれば、とぼとぼと去っていった。老人のようにひどい猫背はさらに丸くなり、悲しみに満ちあふれているように感じた。
 しかし、私はその背中を見てやっと勝利した気分になった。
(あー、二度と会いたくない!神様お願いだから、絶っっっっっっ対!アイツに会わせないで下さい!どっか遠くへ、いっそ地の果てへ飛ばして下さい!)
同じ学校に通っているし、彼はど派手に問題を起こすようなキャラでもなさそうだからそれは不可能だろうに、願わずにいられなかった。
 そして午後五時四十五分頃、収まらないイライラを抱えたままバイト先に行った。更衣室でロッカーに軽くあたりながら着替えをすませ、親しいメル友に不満をぶちまけると、返信がすぐに来なくてもテンションが上がり、やっとやる気が出た。
 そのまま店へ行こうとしたら、あと一歩という所で店長に捕まった。捕まった後、事務所であぶら汗がにじむほど、コッテリ叱られた。先ほどモメていた現場を、野次馬の中に混じって見ていたらしい。
 バイト先では、ドーナツやお菓子、パンを売る接客の仕事をしている。品よく明るくお客様と接しなければならないのに、店先で真逆の行動を取ってしまった。人の目は厳しい。店員に一人でもガラの悪い人がいれば、全員同じ人柄だと思われ、店の品位が落ちるだけじゃなく信頼が無くなってしまう。
「すみませんっ、もうしませんっ!今後、絶対気をつけます!」
私は土下座をして謝った。人生初の土下座だ。店長の言う事はもっともだし、今バイトをクビになれば、貯金が全くないので来月の携帯電話代を払えない。払えなければ、使えない。携帯電話依存症の私にとっては、死活問題だ。
 とは言え、不潔な床に頭をこすりつけて土下座するのは、ものすごくクツジョクテキだった。
 あまりの怒りに、あのキモ暗い青年を呪いたくなった。
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