恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
 森田喜一はいつもより早く、緊張して登校した。昨日助けた女子高生に話しがあったのだ。彼女の持っている携帯電話についてである。
 しかし、正面玄関で会った女子高生は森田を見るなり、あから様にイヤーな顔をした。チラリと見れば『かかわらないでよ』と言わんばかりに、とっとと上履きに履き替え、教室へ向かっていった。声をかける隙は、少しもなかった。
(すごい迫力だなぁ…)
森田は考えていた以上の強気な反応に、ショックを受ける前にいたく感心した。
(でも、何としても携帯電話を捨てるよう説得しなきゃ。アレには、悪霊が取り憑いているんだ。持ち続ければ携帯電話だけでなく彼女の全てに取り憑いて、いずれ暗黒の世界へ引きずり込まれて、二度と明るい世界へ戻れなくなる!)
昨日、携帯電話の周りを取り巻いていた黒いモヤは、今日は彼女が持った通学鞄や腰のあたりを取り巻いている。あきらかに昨日より多くの部分に取り憑いている。このまま策を弄せずにいれば、あっ!と言う間に魂をとられてしまうに違いない。
(どうしたらいいんだ…彼女は霊が見えないみたいだし、存在を信じてもいない。おまけに、取り憑かれた原因だろう携帯電話をとても大切にしている。アレじゃ持つのを『やめろ』と言っても、やめないに違いない。何かいい方法はないだろうか…)
ひとまず名前と学年、在籍しているクラスを調べようと、さっき彼女が靴を出し入れしていた下駄箱へ近付き、見た。
(二年一組、今川春乃?驚いた!僕と同じ学年じゃないか!なのに、今まで気づきもしなかった…)
下駄箱に張られたクラスと名前をしばし見つめ、これまでの高校生活を振り返る。
(これも何かの縁だろう。今川さん、助けてあげたいな…)
昨日の夜、家に帰ってから作り直した新しいお守りをワイシャツの上から握りしめ、思う。ずいぶんひどい事も言われたが、どうしても放っておけなかった。
 彼女のことが、頭から離れなかった。
(…そうだ!せめてお守りをもらってもらおう。昨日、化け物を弾いたんだ。ピンチになった時、少しは時間を稼げるだろう。その間に、誰かが救ってくれるかもしれない。いや、僕が今川さんを説得する時間が増える!)
森田はいつになく目を輝かせ、自分の教室へ向かった。彼の中で何かが変わろうとしていた。
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