恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
ゆっくりと近づく闇
(百メートル走か、超めんどうクサい…)
私のいる二年一組は、今日の二時間目、体育の授業をすることになっていた。夏と言われる季節になると、必ず体育の授業で陸上競技が行われる。運動が苦手の上、寝不足の私には、とても苦痛な内容だった。
(サボろうかな。成績つけるためのタイムを計る時さえ出れば、通信簿はそれなりにつけてくれるんだから。一回くらい出なくたって、問題ないよ)
授業が行われる予定のグラウンドへ向かう途中、正面玄関を出ようとしたところで決めた。グラウンドはすぐ目の前。陸上競技用のトラックは、向かって左側半分。授業開始まであと五分なので、そこそこクラスの生徒は集まっていたが、どうしてもやる気が出ない。
(朝、キモ暗いアイツに会ってから、調子悪いな…アイツ、きっと疫病神なんだ!)
生徒に混じって立っている体育教師に仮病を使って見学する事を伝えようと移動している最中、朝の事を思い出しイライラした。
 そんな時、着た指定ジャージのズボンのポケットに入れた携帯電話の、着信メロディーが鳴った。メールを受信した時鳴るよう設定したものだ。
(ミチカからかな?ミチカからだったらいいな)
ウキウキして携帯電話を取り出すと、二つ折りの本体を開いた。液晶ディスプレイには『メール着信あり 一件』と表示されていた。メールを開けば、やはりミチカからだった。
―これから歴史の授業を受けます。歴史は合わないみたいで、授業を受けるのが苦痛です。春乃さんは、何の授業を受けるんですか?―
(へぇー、歴史嫌いなんだ)
ミチカの新たな一面を知って嬉しくなった。とたん、予鈴が鳴った。
(そうだ、見学するって先生に言わなきゃ…)
「ヒッ・・・!」
携帯電話から目を離し顔を上げると、またあの黒い影がいた。昨夜ほどの数ではないものの、グラウンドの中や、取り囲む住宅街の中をいくつもの影が蠢いている。しかも、それぞれすこしずつ形が違う。髪と思われる部分が長かったり、女性なのかこしから膝上までの部分が動くたび影がヒラヒラと揺れ、スカートをはいているように見える。太っている人も、痩せすぎの人もいる。
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