恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
激突!母VS娘
 正面玄関で倒れた私は、生まれて初めて救急車に乗り病院へ運ばれた。目を覚ました時、事情を知らない私は、最初どこにいるのかわからなかった。ネクタイにワイシャツ姿の父が、太陽光の明るさの中、青ざめた顔で見ているのも拍車をかけた。こんな明るい時間帯に制服姿の彼を間近で見た事は、ここ最近ない。タクシーに乗り、お客をどこかへ運んでいるだろう。鼻先をかすめる消毒液の臭いとはマッチしない。
「よかった、気がついた!大丈夫か?」
「頭が、ボーッとする…」
「そうか…今、お医者さんを呼ぶよ。また診てもらおう」
父は私の頭の上へ手を伸ばすと、ベッドの手すりにぶら下がっているナースコールのボタンを押した。ほどなくして女性の『今川さん、どうしましたか?』と尋ねる声が聞こえた。父は少し声を震わせ答えた。
 私は、動揺しつつあたりを見回した。ベッドは全て明るいベージュ色のカーテンで仕切られていて、誰がいるのかわからない。かすかな話し声だけが聞こえてくる。『とりあえず、精密検査を受けてみよう』とか、『だから早く病院へ行きなさいって言ったじゃない』とか。そんな話しを聞いていたら、自分も重病のような気がしてきた。父にここへ運ばれた経緯を聞くまでは、本当にそう思った。
 ふいに、母の姿が無い事に気づいた。私は動揺していたのを一瞬で忘れ、激しくムカッとした。
「母さん、仕事?」
「ああ。忙しくて、すぐ抜けられないそうだ。さっき電話で話したんだが、とても心配していたよ」
「母さんはパートでしょ?正社員と違って、『一時間いくら』で働いているんでしょ?だったらすぐ来られるんじゃないの?何で父さんが先に来ているのよ」
「母さんも長い間働いているからね。パートといえど責任の重い仕事を任せられて、勝手な行動を取れないんじゃないかな。それに、一段落つき次第来るって言っていたよ。もう少し待ってみよう」
「…父さんって母さんに、本っ当に甘いよね。だから、ズケズケ言い放題の、嫌な女になったんだよ」
「そ、そんな事は、ないよ…」
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