恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
「だ、だからって、悪霊に取り憑かれているとは限らないだろ。黒い影だって、明日になったら見えなくなるかもしれないじゃないか」
「今日の朝はそうだったよ。でも、突然見え…」
私はある事に気づき、ショックで言葉を失った。
(やっぱりそうだ。これで、確定だ…)
ベッドの上に落とした携帯電話をじっと見つめた。黒いモヤはまだ私につながったまま、絡むよううごめいている。
 辛い現実を受け入れなければならないことに、泣きそうになった。誰もいなければ、泣き叫びたかった。
(早く診察終わってくれないかな。早く一人になりたいよ。早く、泣きたいよ…)
私はたまらず携帯電話から目をそらした。
 すると、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。ドアを開けて入ってきたのは、母だった。
「ごめん、遅くなって。仕事がなかなか片づかなくってね」
母は申し訳なさそうに父の隣に立った。私は忘れていた怒りを思い出し、ムッとした。
(自分の良いわけが先?私の身を案じるのが先でしょ?救急車で運ばれたんだよ。すっごく心配するのが普通でしょ!)
私はそっぽを向いた。はらわたが煮えくりかえるほどの怒りに、とても直視できない。
 お医者さんは診察を終えると、母に一礼して話し始めた。
「今診察いたしましたが、お嬢さんは特に問題ありません。おそらく、疲れがたまったのでしょう。ゆっくり休めば大丈夫です」
「そうですか…お騒がせいたしました」
「今すぐ帰られても大丈夫ですよ」
「ありがとうございました」
「じゃ、お大事に」
お医者さんと看護士さんは軽く一礼すると、部屋を出て行った。父と母は返すように一礼すると、私を見た。
「よかったな、春乃。何ともないみたいで」
「日頃の行いが悪いから、バチがあったのよ」
お医者さんと看護士さんがいなくなったとたん、母はいつもの横柄な態度に戻った。そんな母の言い方に、私はカチン!とした。
< 37 / 202 >

この作品をシェア

pagetop