恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
「わかったわかった!今川がそこまで言うのなら帰るよ。これ、制服な。ジャージを着たまま運ばれただろ。自宅に電話したらバイトへ行ったって言うから、様子見がてら届けに来たんだ」
『えっ!』と叫びそうになったが、ギリギリ飲み込んだ。どうやら母はウソをついたらしい。病院を脱走したとは恥ずかしくて言えなかったのだろう。
「気をつかってもらって、ありがとうございます。じゃ、また明日」
「おう。じゃあ仕事は、本当にマジメにがんばれよ」
(一言多いよ…)
パートのおばちゃんがいる手前、ハラハラしながら思った。
 ただ反面、嬉しくもあった。制服を届けてくれた事には、すごく感謝していた。今日は弱っているのに母にキツくあたられ、かなりヘコんでいた。だから、先生のウザい言葉や態度が暖かくて嬉しかった。ヘコんでいた気分もかなり回復した。
 バイトが終わると事務所へ行き、泊めてもらう事にした。帰れば母にまたアレコレ言われるに違いない。すでに疲れてクタクタなのに、これ以上嫌な思いをしたくなかった。
 夕飯は、休憩時間に店で売っているドーナツとパンを食べ、アイスカフェオレを飲んだ。あいかわらず飲み込む時喉に違和感を感じたが、調子が悪いと言う事にした。
 寝る場所は、事務所のソファーを借りる事にした。パジャマは持ってきていないので、学校の指定ジャージとTシャツを着る事にした。制服は着替えがない。ワイシャツをシワくちゃに出来なかった。寝床にするソファーは、寝返りを打てるギリギリの幅だったが、クッションが効いていて、そこそこ寝心地が良かった。
(母さんがいないのって、静かでいい)
携帯電話はまったくイジらなかった。父さんから電話がかかってきても、でなかった。メールは、メル友とミチカの分も含めたくさん届いていたが、見なかった。
 ミチカの事を、考えたくなかった。
 午後十一時二十分。寝ようとすると、鞄の中に入れっぱなしになっている携帯電話の着信メロディーが鳴った。電話の呼び出しように設定したものだ。
 昼間の一件を思い出すと、メールはまったく関係していないが、恐怖が全身を駆けめぐりワナワナと震えた。震えを止めようと体をギュッと抱きしめても止まらない。いつまでもいつまでも震えている。
(もう、あんな思いは嫌!二度としたくないっ!)
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