恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
(メールを開くとトラブルが起きるかもしれないけど、パソコンのサイトに接続して調べ物をするくらいなら問題ないかな。憑いている悪霊を祓ってもらうのに、どれくらい料金がかかるか知りたいんだよな。だって昨日父さんは、『悪霊がついている』って言ったのに信じてくれなかった。だから、それにかかるお金もきっと出してくれない。けど、時間はない。頼れるのは自分だけ。自分で出せる金額なら出して、とっとと祓ってもらいたい。早く元の生活に戻りたい。また友達と気兼ねなく遊びたい!)
心の底から強く思った。考えていた以上に焦っている。
 昨日会った男性の霊が見せた携帯電話を取り巻く黒いモヤは、この世に存在しない物を信じさせるだけの効果が十分にあった。日に日に増す危機に、私は大いに焦っていた。
 店長が使っているグレーの机の後ろにある壁に掛けられた丸い時計を見れば、まだ午前七時十分だった。ここから学校までは、バスで二十分ほどしかかからない。バス停から校舎までの歩きの時間も含め、午前七時五十分に出れば十分間に合う。
 再び通学鞄を見た。昨日見た黒いモヤを思い出すと、不安で心臓がドキドキした。
(大丈夫、大丈夫。受信したメールを開かなければ、きっと何も起きない。昨日香からかかってきた電話をとっても、何も起きなかったし)
しかしいざ膝の上に鞄を乗せても、なかなかファスナーを開ける事が出来ない。踏ん切りがつかなかった。
 すると突然、電話の着信メロディーが鳴った。一瞬出るかどうか迷ったが、二十コールくらい待っても切れなかったので出た。父からだった。
 ただ携帯電話をつかむとき緊張した。香の時は何も起きなかったが、確信は持っていないから。
「はい」
『春乃、おはよう。元気か変わりないか』
「うん」
本当は物を飲み込む時またも引っかかるような感じがし、少なからず不安を抱いていた。だが父の優しい声を聞き、これ以上心配をかけたくないと思い言葉を飲み込んだ。
『朝メシは食べたのか?まだなら、何か買っていくよ』
「もう食べた。だからいい」
『そうか…ところで、昨日はどこに泊まったんだい?』
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