恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
「バイト先」
『…春乃、体を壊したら大変だから、家へ帰っておいで』
一瞬、私はイラッとした。『家』と聞いて、忘れていた憎い母を思い出したのだ。
『ちゃんとした物も食べないで、学校へ行ってバイトもするんだろ?なのに夜は体をゆっくり横たえる場所も無いんだろ?そんなんじゃ、すぐ体を壊してしまうぞ』
「ちゃんとした物は食べられないし、ゆっくり寝られるフカフカのベッドも無いけど、精神的な苦しみはずっと少ない。家にいるより、ダンゼンいい」
『母さんも悪気があったワケじゃ…』
『父さん、いつまで電話してんのよ!昨日休んだんだから、今日遅刻したらクビになるよ!』
ふいに、父の後ろから声がした。どうやら父は母に内緒で電話してくれていたらしい。そんな父の気遣いをありがたく思いつつも、少しも思いやってくれない母に、ひどく腹が立った。
「今日も帰らないから」
『えっ?春乃、ちょっとま…』
私は携帯電話を耳から放すと、ブチッと通話を切った。
(あいかわらず強気だよな、母さん。父さんは、なんであんなヒドい女と結婚したんだろう。もっと優しい人、他に一杯いるだろうに)
携帯電話を二つ折りに閉じると、イライラしながらバッグへ放り込んだ。あまりにもイライラしていたので、『携帯電話を使ったら、また黒いモヤのかかった人が現れるかもしれない』とか、『お祓いにかかる料金を調べなきゃ』と思っていたのをすっかり忘れていた。
 それがさらなる恐怖へ誘う事だと、少しも気づかずに。
 結局、テレビもなく携帯電話もイジれないのでヒマになり、午前七時三十分にバイト先を出て学校へ向かった。店の鍵は、一番に出勤してきた社員のお姉さんに渡した。ファストフード店の朝は早い。七時三十分過ぎには、掃除やモーニングセットの準備を始め、午前八時の開店に会わせなければならないのだ。
 そこそこ込んでいるバスに乗り、予定通り二十分揺られると、午前八時に学校へ着いた。どこもかしこも朝の清々しい空気に包まれていて、深呼吸すると抱いていた怒りがゆっくりとなえていった。
 
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