恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
私は湯船から上がると急いで洗い場へ行き体と頭を洗うと、水風呂以外の湯船に五分ごとつかって上がった。バスタオルで体を拭きながら脱衣所の時計を見れば、入ってから四十分経っていた。
(よし、これなら予定をキッチリこなせそうだ。あー危なかった危なかった!)
制服はちょっと汗くさかったが、頭と体は良い匂いがした。香りに自信を持って会えそうだった。
(ノドもかわいたし、ジュースでも飲んでいくかな)
ドライヤーで髪を乾かしメイクもバッチリ決めると、すっかり良い気分になり、休憩所にある自動販売機でフルーツ牛乳を買った。ビンに入っているフルーツ牛乳だ。久々に飲んだフルーツ牛乳は、昔飲んだのと同じ味で全く変わっていなかった。
(なつかしいなぁ。父さんと銭湯に来た時、よく飲んでいたなぁ)
私がまだ幼稚園に通っている頃、父は夜勤の日、出勤前にたまに連れてきてくれた。あのころはまだ一緒にお風呂に入っていたので、二人で銭湯へ来ると男湯へ入り、頭も体も洗ってもらった。上がればビンに入ったフルーツ牛乳を買ってもらい、飲んだ。今思い返しても楽しい記憶だ。
(そうだ。寂しがりやの私は、父さんに『銭湯へ行くか』って言ってもらった時、とっても嬉しかったんだ。二時間くらいだけど、父さんにいっぱいかまってもらえると思うと、すごく嬉しかった。できるなら私は、そいうことをたくさんして欲しかった。お金がないならないなりに公園へ連れて行ってくれるとか、一緒に子供番組を見てくれるとか。とにかく一緒にいて欲しかった)
一口一口味わいながら、昔を思い返す。
(このフルーツ牛乳は、あのころからぜんぜん変わっていない。変わらないって良くない事だと思っていたけど、そんなことない。なんかホッとする)
半分くらい飲んで、ビンを見つめた。フルーツ牛乳を飲んでいるのは十七歳の私だが、このビンの中に五、六歳の私もいた。不思議な感じだった。
 そんな時、部屋の隅にこぢんまりと置かれた本棚が目にとまった。木製でシンプルなデザインの、高さ横幅共に一メートルくらいで、新聞や雑誌が三段のしきりの中に二固まりずつ置かれていた。携帯電話をイジれない今、少し手持ちぶさたで、見てみようと言う気になった。時計を見ればバイトの時間までまだ一時間四十分もあった。
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