恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
 するとロッカーが目につき、鞄の中に入れっぱなしになっている携帯電話が気になった。携帯電話は今日も、メル友からのメールを沢山受信している。しかし一通も開けられない。見られない。それを思うと辛かった。
 丸一日、携帯電話に触っていない。今まで朝起きてから寝るまでメール交換ざんまいだったのに、『おはよう』どころか『こんにちわ』さえ言えていない。
 ふと、嫌な考えが脳裏を過ぎった。
(みんなに嫌われたら、どうしよう)
昨日の晩、香は様子見の電話をくれた。だから、香とは縁が切れる可能性が低い。
(でも他のメル友には連絡をとっていない。私なら、絶対絶交している。このままじゃ、香だけがメル友になっちゃう。香一人だけなんて寂しすぎるっ!)
再び気分が落ち込んだ。すっかり暗い考えにハマってしまったようだ。
 たまらずロッカーを開け、鞄の中から携帯電話と取り出そうとした。黒い影が見えてもいいから、黒いモヤのかかった人が見えてもいいから、昨日からまったく見ていないみんなのメールを見ようと思った。そして、一生懸命謝っているメールを送ろうと思った。私はものすごく焦っていた。
 しかしいざロッカーを開けると、ハンガーにかかった制服のワイシャツを見て、ハッとした。
(しまったーっ!ワイシャツをクリーニングに出すの忘れていた!着替え買うの忘れていた!いや、機種変更するのも忘れていた!やっばーいっ!)
慌てて更衣室の壁に掛けてある正方形の掛け時計を見る。バイトが始まる時間まであと二十分ある。予定を全てこなすのは、無理な時間だ。
(携帯電話の機種変更は無理だな。時間が足りない。明日にしよう。今日はクリーニングを出すのと、着替えを買う事だけしよう。どっちも絶対今日中にやらなければならないし)
私はハンガーからワイシャツを取ると左手で抱え、時計代わりの携帯電話をキュロットのポケットに入れ、右手で鞄から取り出した財布を持った。そしてもう一度時計を見た。
(一番側にあるクリーニング屋までは、走って三分。クリーニング屋から服を売っている店までは、全速力で走っても二分はかかる。戻ってくる時間を考えると、ギリギリだ。着替え買うのやめようかな…でも、夜に制服を着て外をウロウロするのはマズイよな。警察に補導されそう。うーん、やっぱり買うか!)
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