恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
 彼女の手を見ると、確かに私のと同じ機種で色違いの携帯電話が握られていた。彼女は目が合うと、ニコニコして手に持っている自分の携帯電話と見比べた。
『やっぱりオレンジ色もいいなぁ。すっごく迷ったんだよなぁ。…あっ!ゴメン。同じ機種持っている人あんまりいないから、つい嬉しくて声をかけちゃった』
『ううん、大丈夫。…あの、もしかして、数学の鎌田先生の授業を受けている?』
『受けている!鎌田先生、教えるの上手だよね。私、色んな問題をスラスラ解けるようになったんだ』
『私もそう!』
私達は初めて話したのに、昔から親友だったかのようにうち解けて話し、すぐ仲良くなった。メールアドレスを教え合えば、ことあるごとメール交換をするようになった。
 彼女の名前は、オクダ カオリ。漢字で書くと、奥田香。彼女とは通う高校が違うが、今でも頻繁にメール交換をしていて、電話もするし、よく遊んでいる。大切なメル友だ。
 彼女を皮切りに、塾や学校でたくさんのメル友を作った。携帯電話をネタに話しかけると、すぐ仲良くなれたのだ。登録件数は、あっという間に百件を超した。使用料は、頼み込んで月五千円に上げてもらった。そして毎日使用額を超えないよう注意しながら、誰かとメール交換をした。親に聞いてもらえないうっぷんや嬉しい報告は、メル友にしまくった。
 それまで心の中に巣食っていた寂しさが、ウソのように無くなった。携帯電話のおかげで、私は寂しさから解放されたのだ。
 しかし、高校二年生の私は、再び寂しさに縛られようとしていた。過去の辛い経験を思い出すと、焦りが津波のように襲ってきた。
 メールを送って五分後、十人送ったうちの一人から、やっと返信が来た。急いでメールを開くと、イライラしている私とは対照的に『お久しぶり、元気ぃー!』と嬉しそうだった。二通目に来たメールも、三通目に来たメールも同じ。申し訳なく思っている気配は微塵もなかった。
(少しくらい『メール、遅くなってゴメン!』とか、謝る気持ちないわけ?サイッテー!あー、やっぱ送るんじゃなかった。かえって気分悪くなった!)
その後、残りの七人から五、六分間隔くらいでメールが届いたが、見ないで削除した。たぶん内容は変わらないだろう。返信は、明日以降することにした。
 
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