恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
私は意を決すると、バイト先の制服を着たままクリーニング屋へ向かって、全力でダッシュした。三分かかるところを一分でたどり着けば、二分で手続きをすませ、ティーン向けの服を売っているお店へむかってまた全力でダッシュした。
 二分かかるところを一分三十秒でたどり着いたが、呼吸はゼエゼエし、肩は激しく上下した。額や顎、脇の下には、大量の汗をかいた。
(こ、こんなんで店に入っても、変な目で見られないかな…)
店内を見れば、色々な学校の制服を着た女子高生が五、六人いた。バイト先を出る時はあせっていたので深く考えていなかったが、バイト先の制服を着たまま制服姿の女子高生に混じって買うのはすごく目立ちそうだった。
(ジロジロ見られるの、嫌だなぁ。『制服着たまま買いに来るなんて、ひょっとしてオバサン?』とか思われて、馬鹿にされないかなぁ。あー、何か帰りたくなってきた)
すっかり意気消沈した私は、店の前でウロウロした。ただでさえ時間がないのに、変なところでプライドがじゃまする。携帯電話を開いて時計を見れば、残り十分を切っていた。
(ヤバイ、マジでヤバイ!服を買うならもう選びに入らないと間に合わない!)
ふいに、頭の中に制服姿で補導されている自分の姿が浮かんだ。香は私服で通学しているし、いつもカラオケに行く他のメンバーは、遊びに行く時必ず着替えて来る。このまま行けば補導される確率が高いのは私だけ。私だけ警察へ行かなければならないかもしれない。
(ダメ、そんなの困る。楽しい一夜が台無しだ!)
急に勇気が沸いてきた。バイト先の制服を着てても、へっちゃらで買えそうな気がしてきた。
(大切な香と約束したんだ。なのにこのままじゃ、約束を破るかもしれない。ダメダメ、絶対ダメッ!)
もう恥も外聞もなかった。やるしかなかった。私は戦場で敵兵につっこんでいく戦士のように店の中へ入った。
 店の中へ入ると、店員だけでなく商品を優雅に物色していた五、六人の女子高生全員が私を見た。痛いほどの視線が突き刺さる。店員が『いらっしゃいませ』といっても、視線はそれない。しばらくの間、『なんでいるの?』と言いたそうな目で食い入るように見ていた。
(香のため、香のため!ヘコたれないぞ!)
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