恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
「わかりました。今すぐやります!」
私までせっぱ詰まった気分になり、調理場へ慌てて駆け込んだ。ドーナツは全て店備え付けの調理場で作っている。時間帯によっては出来たてを買う事も出来る。シスタードーナツの人気は低価格のほかにも、そんなところにあるかもしれない。
 ドーナツを取りに調理場へ駆け込むと、中では三人の調理師がフル稼働で作っていた。それでも作る量には限界があり、まだトレーの中には五こずつくらいしか入っていなかった。
「あ、今川さん。こんばんわ。ドーナツ取りに来たの?」
調理師で四十代の男性、小林さんが言った。子供が三人いる子煩悩なパパだ。優しい顔つきそのままに性格も優しい。
「はい。でも、まだ全然できていませんよね?」
「うん。がんばっているんだけどね。あと十分くらい待つと、数がそろうよ。それとも、できた分だけ持って行く?」
「そうします!」
私は少しずつだが出来上がったドーナツを受け取って店舗へ走った。戻ってきてすぐ、カウンターになっているショーケースを見れば、空っぽになっている場所がけっこうあった。正社員のお兄さんも『少々お待ち下さいませ』と一生懸命お客さんに説明している。私は接客しているみんなの間を縫ってショーケースを開けると、持って来たドーナツを出来るだけ早く入れた。しかしそれもあっという間に無くなった。
 その日はずっとこんな調子で進んでいった。休憩時間も一人十分しか取れず、午後一時からのシフトで入った人は、二時間ほど残業して帰った。なかなかお客が引かなかったのだ。もちろん私も必死に接客した。お客が少し引くと、コーヒーを落としたり洗い場で山になっている食器やカップを洗った。調理場に負けないくらい、私もフル稼働した。
 おかげで閉店一時間前の午後十時。百円均一の商品だけじゃなく、ほとんどの商品が売り切れてしまった。早く店じまい出来そうだった。
(これなら香と早く遊べそうだ!)
私はウキウキしながら後片づけできそうな場所を片づけ思った。
 すると午後十時三十五分。店長はいつになくニコニコしながら、洗い場で作業している私やパートのおばちゃんのところへやって来た。
 

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