恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
 そして二人のマシンガントークは、なかなか一息つかなかった。毎日メールを交換しているので、色々な事を細かく話していてネタがつきそうなものだが、次から次へと話題が変わり、どんどんどんどん盛り上っていく。終わる気配は全くない。そのうち係のお姉さんがやって来て部屋へ案内すると言われ、話しは中断。移動中は、部屋を覚える事に意識を集中しなければならないので、ベラベラと会話している余裕がないからだ。
 おかげで、私がメールの返信を出来ずにいる理由は聞かれなかった。忘れてしまったらしい。
(いやーよかった。このまま明日へ持ち越せば、メールを返信できない理由をうやむやにできる。みんな、忘れてぇー!)
私は心の中で叫んだ。
 部屋へ着くと、涼子と茜は向かい合わせにある二人がけ用の長いすに飛び込むよう座った。曲番号が書かれた分厚い本を手に取れば、歌う歌を選び始めた。歌う気満々だ。香は必死になって本をめくり曲を選んでいる涼子の隣に座ると、飲み物のオーダー表を手に取った。
「先に飲み物を注文しようよ。ノドが渇いたわ」
「お、そうだな。今日は二時間しか歌えないしな」
涼子はサバサバした口調で言った。兄と弟の真ん中として産まれた彼女は、兄弟の影響をモロに受け男の子のように育った。悪く言えばガサツだが、よく言えばサッパリしていて後腐れがなく頼りがいがある。もしかすると私に彼氏が出来ないのは、彼女の生き様が格好良すぎて、普通の男が弱々しく見えてしまうからかもしれない。
「なんでぇ、あたしぃ、もっと歌いたいよぉ」
「アタシさ、バイト代が入るの明日だから、今はカネがないんだ。キンケツなんだ」
「だったら、私、足りない分出そうか。バイト代出たばっかりだし」
「ハルちゃんにはこの前借りただろ。そんなに借りてばっかりいられないよ」
「何でぇー。ハルちゃんがいいって言っているんだから、甘えて借りればいいじゃなぁい。そうしたらぁ、もう一時間くらぃー遊べるよぉ」
茜は、右手の人差し指でデジタルパーマをかけた毛先をクルクルと巻きながら言った。かなり濃度の高いブリッ子オーラをまき散らしている。男勝りの涼子は茜がしゃべればしゃべるほど、イライラしていく。時間がないのにモタモタしゃべっているのが気に入らないらしい。
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