恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
(よかった、間に合った。今回はマジでチョーヤバかった。あと五秒遅かったら、『こんな年になって…』なんてレベルの赤っ恥をかくところだった!)
私はえもいわれぬ開放感を味わいながら、スキップして部屋へ戻った。他人からしてみれば大した事じゃないかもしれないが、私にとっては大きな苦難を二つも乗り越えた。そんな自分がすごく誇らしかった。
 しかし部屋へ戻ると、幸せな気分をブチ壊す事態が起きていた。香が私の携帯電話を鞄から勝手に出し、イジっていたのだ。
 私はイラッと来る前にドキッとした。
(悪霊が憑いているのに…その携帯電話には、悪霊が憑いているのに!)
私は激しいショックに体がガタガタと小刻みに震えた。もしかしたら、携帯電話を触った香にも悪霊が憑いてしまうかもしれない…そんな考えが頭から離れなかった。
 震えを払いのけるようドアを勢いよく押し部屋の中へ入れば、香と茜はビクッと体を震わせて私を見た。二人の目は少し脅えていた。
「か、香…何しているの?」
「ごめんね、ハルちゃん。勝手に携帯電話をイジったりして。でも、私も同じ機種を持っているから、直せるんじゃないかと思ったの。もしポイントが貯まっていなかったら、機種変更するのにお金がかかるでしょ」
「そんな心配しなくていいのに…私、香みたいに塾も通わずバイトをしているから、すっごい稼いでいるの。だから、機種変更くらいしてもヘッチャラだよ。ぜんぜん気にしなくていいよ!」
「ハルちゃん、そんな言い方ないだろ。香はさ、ハルちゃんのこと心配してやったんだぜ。『ありがとう』は言ってもいいけど、『気にしなくていいよ』って叫ぶのは失礼じゃねぇか。さんざん香には助けてもらっているんだろ」
涼子は本気でイラついていた。事情を知らないから、私がワガママから香に意見していると思っている。
 私はだんだん泣きたくなってきた。このままでは、起きて欲しくない事が起きてしまうかもしれない。
(香に、悪霊が憑いたらどうしよう…悪霊が憑いたらどうしよう!)
自分の身に降りかかってきたのと同じ恐怖が、大切な香にも降りかかるかもれない。香はマジメで優しくて頭がいい。そんな彼女が悪霊に取り憑かれる理由なんてない。

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