恐怖へいざなうメールはいかが~from.ミチカ
 全てを終え壁に掛けた時計を見れば、午前三時三十分を回っていた。自分でもよく頑張ったとほめてあげたかった。なぜなら、テスト勉強でさえ一夜漬けの上、午前一時には寝ていた。その時に比べると、ずいぶん夜更かしをしてがんばっている。
 そのかわり、このままでは朝、起きられないかもしれない。遅くとも、七時三十分には起床して身支度を調え朝食を取らなければ、朝のホームルームに間に合わない。
(私、けっこう寝ないとダメなんだよな。でも、この後まだやる事があるし、どんどん寝る時間が減っていく。マジ、起きられないかも。いっそ学校をサボろうかな。一日くらい行かなくったって平気だよ)
いよいよ疲れがピークに達し、投げやりな考えが頭をもたげた。担任の教師に留年をほのめかされるほど成績が悪いのに、授業くらいマジメに出て内申点を取らなければ卒業できないかもしれない。
 今時女の子でも、四年制大学を卒業するのが当たり前。だから高校くらい卒業しないと、就職口が見つからない。私の人生はずっと崖っぷちあたりをウロウロしている。それくらい、よくわかっている。
(そうだよ、学校くらい行かなきゃ。このままじゃ、父さんレベルの収入をもらってくる男とさえ、結婚できないかもしれないよ)
フラフラして立ち上がると、とっとと終わらせようと、部屋の隅に置いてある折りたたみ椅子を一脚持った。携帯電話を何も置いていない広い場所の床に置けば、椅子を上へ振り上げた。
(バイバイ、私の携帯電話)
高校入学と共に、香と一緒に今の機種へ変更した。たった一年間しか使っていないが、本当に沢山のメール交換をして楽しんだ。寂しさを癒してもらった。すごく感謝している。
(約一年間、色々ありがとうね。こんな形でサヨナラして、ゴメンね…)
これでお別れなのかと思うと、悲しくて涙が出そうになった。それをグッとこらえ、目をつぶって椅子を力一杯振り下ろした。グシャッとつぶれるところを見たくなかった。
 ところがグシャッとつぶれそうになる前に、何かに当たって椅子が跳ね返った。まるで鉄にでもぶつかったかのような、しびれるような衝撃を手に残して。
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