ここで歌うは君がため〜交わされた約束〜
「ハジ殿、無許可の侵入はご遠慮願いたい」
レヴァノンはいつでも冷静だ。
「まあまあ、そんなに睨まないで。オルフェも、その戦闘態勢はやめてよね。僕はオズの側室とやらを見に来たんだから」
「オズヴェルド様が側室を作ったと、どうしてご存知なのです?」
「やだなぁ、僕はオズの親友だよ? なんでも知ってるに決まってるじゃない」
肩まであるグレーの髪をかきあげながら、自慢げな顔をするハジ。
オズヴェルド様はハジ殿にユノ様のことを話したのだろうか?
どちらにせよ、側室を作ったことは周知の事実になることは覚悟していたが。
「それにしても・・・」
制止するオルフェを軽々とかわし、ゆのに近付くハジ。
「まさかオズの側室が異世界の人とはね。僕の名は、ハジ・ウルグ」
ゆのは立ち上がり、ワンピースの裾を軽く持ち上げ挨拶をした。
「柊ゆのと申します」
ゆのは勉学の一貫として学んだ礼儀作法を思い返していた。
「へぇ、ユノか」
「ユノ様は、ヒーラギという苗字なのですか?」
レヴァノンが驚いたように聞いてくる。
「そうだけど・・・。言ってなかったっけ?」
「はい」
そうだったかなーーー?
「名を述べるときは、名を先に、苗字を後に述べてください」
「ゆの、柊?」
英語と一緒ね、と小声で呟くゆの。
「ユノって可愛らしい名前だね」
そう言うとハジは一気に間合いを詰めてきて、ゆのの左手をそっと握って指先に口付けた。
一連の流れるような動作に反応が遅れたが、ハジにキスされたことに気付くと、ゆのは左手を右手でかばった。
その様子を流し目で見たハジは、
「・・・興味深いね。また近いうちに会いに来るよ」
と言って部屋から出ていった。