ここで歌うは君がため〜交わされた約束〜
ハジが出て行ったあとも、ゆのは左手を握り締めている。
「ユノ様。ハジ殿のあれは、挨拶の一貫です」
「・・・分かってる」
ゆのの声は暗かった。
「庭を散歩でもしますか? 少しの時間であれば、オルフェがいれば問題ないでしょう」
レヴァノンの計らいにより、ゆのは初めて城の建物から出ることになった。
外から見る城は壮大だった。世界史の資料集に載っているヨーロッパの城といった外観。
いつも見ている内観も美しいが、外はその周りの風景も含めてもっと美しく感じた。
庭は草花で溢れている。
しかし、ゆのは遠目に眺めはするが近付きはしない。
不思議に思ったオルフェは口を開いた。
「ユノ様。もっと近付いて見てみませんか?」
ハッとした表情を浮かべ、漆黒の瞳を瞼が覆った。
そのままギュッとして、しばらくしてそっと目を開けた。
「・・・ありがとう、オルフェ。でも、大丈夫。これ以上はあんまり近付きたくないの」
何故ーーー?
頭に浮かんだ疑問を打ち消す。
なぜなら、こちらに燃えるような赤い髪の王子が近付いてきたからだ。
「・・・ユノ」
目覚めた日以来の再開だ。改めて明るいところで見ると、リンゴのような赤い髪はやっぱりとても綺麗だった。
そして、チョコレートのような瞳を持つ彼が、とても美男子であることにゆのは気付く。
「オズヴェルド、様・・・」
ぎこちなく呼んでみるゆの。
レヴァノンやオルフェ、ミーシャには、継承は不要だと言われてしまった。
日本ではありえないことだが。
しかし、オズヴェルドは王子様。
流石に呼び捨てというわけにはいかないだろう。