ここで歌うは君がため〜交わされた約束〜
そのときは自由に歌えていた。自分がそのとき感じたことを歌にする。幼いゆのは毎日が楽しくて、明るい幸せになれるような歌を響かせていた。
そのときゆのは知らなかったが、笑顔でピアノを弾く母は思い悩まされていた。父親は跡継ぎとして男の子が欲しかったのだが、ゆのは女の子だったため早く男の子を産めと言われていたのだった。
何故か子どもはできず、母は精神的に追い込まれて死んでしまった。ゆのが10歳の時だった。
「それで・・・ひっく・・・」
ゆのは泣き出してしまった。オズヴェルドの大きな手が背中をトントンと優しくたたいた。
大丈夫だよ、というように。
「それからなの・・・お母さんが死んでしまってから、地獄の生活が始まった・・・」
母親が死んでしまって父親は荒れた。
「チッ・・・男を産まないまま死にやがって・・・」
そう言っては酒を浴びるように飲んだ。
もともと父親はゆのに興味がなく、たいして話したこともなかった。しかし母親が死んだことで跡継ぎが望めないとなると、ゆのに目をつけたのだった。
「お前、歌ってみろ」
父親に聞かせるのは初めてだった。初めて聞いてもらえる嬉しさで、ゆのは心を込めて歌った。
「・・・まぁまぁ、いいな。お前、明日からステージに出ろ」
「え?」
「お前の歌を人に聞かせるんだよ」
「どうして?」
「そんなことは考えなくていい。今みたいに歌え」