ここで歌うは君がため〜交わされた約束〜
次の日から本当にゆのはステージに立つことになった。
「アイツが言ってたことは本当だったんだな・・・」
生前、ゆのに全く興味を持たない父親に、母親はよく言っていたのだ。ゆのの歌を聴いてみて、と。心に響く歌声をしてるのよ。あの子の歌には、人を癒す力があるわ、と。
父親はそれを思い出し、ゆのでお金儲けを始めたのだった。幼いゆのはそれを知らず、ただただ毎日歌い続けた。お客さんからはアンコールもあるし、上手いと褒めてもらえる。ゆのは自分が大好きな歌がいろんな人に聴いてもらえて嬉しかった。
しかしある日、12歳になったゆのは聞いてしまった。父親が誰かと電話していた。
「ゆのを貸してほしい? それだと特別料金になりますねぇ・・・。あの子の歌はそんなに安くないですから・・・」
そう言って電話を切ると、恐ろしいことを口にしたのだ。
「アイツの歌は思っていたより金になるな・・・。商品価値をどんどん釣り上げればもっと儲かるな」
そこでゆのは知ったのだ。父親は自分の歌を金としか見ていなかったのだと。ゆの自身を認めてくれていたわけではなかったのだと。
その日の夜、ゆのは父親に言った。
「あの・・・私、もう、歌いたくないんです・・・」
「は?」
「明日から人前で歌うの、やめたいんです」
勇気のいる告白だった。しかし父親は鼻で笑ったのだった。
「なんだ? 寝ぼけてるのか? お前は俺の金で生活している。だったら俺のために働くのは当然だろう?」