ここで歌うは君がため〜交わされた約束〜
夜も深まった頃、部屋の扉がたたかれた。
「はーい!」
ゆのが返事をするとすぐにオズヴェルドが顔を覗かせた。
「ユノ、行くぞ」
「うん」
オズヴェルドの服も黒で、燃えるような赤い髪がとても目立った。
「ミーシャから聞いてはいたが、本当に真っ黒だな」
オズヴェルドにじっと見つめられて、顔が赤くなるのをゆのは感じた。
「今日は何が起こるかわからない。俺から離れるなよ?」
「・・・うん」
オズヴェルドにエスコートされて、送りの儀式へと向かう。ゆのはまだ行ったことがなかったが、城とは別の来賓館で行われるらしかった。
城の庭を歩いて来賓館へと向かう。オズヴェルドは今どんな気持ちなんだろう。
ゆのは母親を亡くしたことがある。とてもそれは悲しくて苦しくて、一言では言い表せないものだ。オズヴェルドも母親を亡くしている。そして今回は兄までも・・・。
ゆのの沈んだ様子に気がついたのか、オズヴェルドは立ち止まって言った。
「ユノ。確かに兄上が亡くなったことは悲しい。あまり会ったことはなかったし、不治の病だからいつかはこうなることがわかっていた。・・・だからそんな顔するな」
いつの間にか涙が出ていたようで、オズヴェルドの大きな手がそっと涙を拭ってくれた。
オズヴェルドを慰めるつもりが、自分が慰められている。
「オズ、ごめん。私なんの役にも立たなくて・・・」
「傍にいてくれるだけでいい。それだけで、俺は安心できるから」
そう言うと、オズヴェルドはまた歩き出した。
不意打ちでそんなことを言うのはズルイとゆのは思っていた。