ここで歌うは君がため〜交わされた約束〜
来賓館に入ると、中は薄暗くてよく見えなかった。たくさんの人がいることだけが、なんとなくわかる程度の明るさだ。
「送りの儀式はずっとこの明るさなんだ。ユノ、迷子になるなよ?」
ぎゅっと腰を抱かれてゆのは内心タジタジだった。
こんなに密着してたら、迷子なんてなりっこないーーー。
エスコートされるがまま歩くと、すぐに送りの儀式は始まった。クリストフ国王様は出席できない旨を伝えている・・・クレア王妃が。元の世界のお葬式でいう喪主にあたるのは、どうやらクレア王妃のようだった。
「送りの儀式にこんなにたくさんの人が来てくれたことを、アレンも嬉しく思っているだろう。それでは、鏡と時計を出して弔いの言葉を・・・」
みんながゴソゴソしはじめたので、ゆのも胸元から時計を引っ張り出した。オズヴェルドも小型の鏡を出そうとしている。
「きゃっ」
オズヴェルドの手が腰から離れた一瞬の隙を突いて、何者かがゆのの時計を引っ張った。首にかかったままのそれにつられて、ゆのも引っ張られた。
「んっ、やだ! 誰!? 離してっ」
静まり返った会場内でゆのの声が響く。
「ユノ!」
オズヴェルドの声が聞こえるが、暗くてどこにいるかよくわからない。
「・・・壊してやる」