ここで歌うは君がため〜交わされた約束〜
☆あなたは、誰? ここは、どこ?
久しぶりに夢を見ることなく、眠っていたように思う。
沈んでいた意識が、徐々に目覚めてくるのをゆのは感じていた。
「・・・ここは・・・?」
まだしっかりとは見えない目で、周りを見渡す。
白い、とゆのは感じた。
なにか白いものに覆われたところにいるようだ。
次に、身体に冷たいシーツのような感触を感じる。
それと、なにかあたたかいものに抱かれているようなこの感じは、一体ーーー?
「きゃあああっ!」
ぼんやりとしていた意識まで覚醒した。
「は、離してっ」
あたたかいものの正体は、自分を抱えていた、たくましい2本の腕。
その先には、燃えるような赤い髪をした、見知らぬ男がいた。
しかもここは、ベッドの上!
手足をバタバタと動かし、なんとか逃れようとするゆのを見て、赤い髪の男が持つチョコレート色の瞳が驚きを滲ませた。
「起きたのか? 起きて早々、暴れるな。お前は丸一日寝ていたんだぞ」
暴れる少女を優しく押さえながらそう言った。
「あっ、暴れないからっ! 離してっ!」
なおもたくましい腕から逃れようと、少女は抵抗を続ける。
「名を教えろ」
「え?」
顔を上げて男を見たとき、少女の瞳は、チョコレート色の瞳以外のものをしっかり捉えた。
「・・・リンゴ・・・」
「リンゴ、という名なのか?」
少女の目は、男の髪をじっと見つめている。
「貴方の髪、真っ赤に熟れた、リンゴみたいね・・・」
そっと左手を伸ばして、髪に触れる。
少し長めで、毛先が遊ぶように流れている男の髪は、真っ赤だった。
少女はそのまま指を通して、梳いてみる。
「綺麗・・・」
薄暗い部屋でもこれだけ綺麗なのだから、太陽の下で見たらどれほど美しいだろう・・・?
思わずそう考えずにはいられないほどだった。
しばらくしてハッとした顔をした少女は、慌てて手を離した。
男は呆気にとられた顔をしている。