ここで歌うは君がため〜交わされた約束〜

「ユノ様!・・・テト様といらっしゃったんですね」


少し驚いたような顔。


「うん。テトが連れてきてくれたの」

「ユノ様は本がお好きなのですか?」

「うん、好き・・・。寂しいことや辛いこと、全部忘れさせてくれるから・・・」


漆黒の瞳が暗さを宿している。


「ユノ・・・?」

「あ、ごめんなさい!・・・えっと、ミーシャ、この紅茶はどんな味なの?」


思わず元の世界にいた頃を思い出してしまったゆのは、慌てて話を変えた。


「・・・こちらは、ユベリアという柑橘系の紅茶です。クッキーは紅茶に合わせた味付けにしています」


ユベリアなんていう紅茶は聞いたことがない。
風に乗って香ってくる紅茶の香りーーー


「ほんとだ!柑橘系の香りがする・・・」


みかんのような、グレープフルーツのような、甘酸っぱい香り。

クッキーは形がいろいろあってとても可愛らしい。


「ありがとう、ミーシャ」


ゆのに言われたミーシャはにっこり笑って、


「またなにかあったらお呼びください」


と言って立ち去った。



「飲んでごらん? 落ち着くよ?」


ブルーの瞳が優しく促す。

紅茶を手にとったゆのは、ひとくち口に運んだ。

口に広がるのは香りと同じ甘酸っぱさ。少し甘くて、砂糖のようなものも入っているのかもしれない。


「おいしい!」

「よかった・・・」


本の話をミーシャに聞かれて暗くなったゆのを、テトは気にしていた。





「ねぇ、ユノのいた世界はどんなところなの?」

< 41 / 208 >

この作品をシェア

pagetop