ここで歌うは君がため〜交わされた約束〜
「ユノ! ユノ!」
反射的に駆け寄って抱き抱えたゆのの顔は青ざめていて、心なしか手足も冷たいように感じる。
「そんなことぐらいで意識を失うような女なんて、オズヴェルド様の側室には向いていませんわ」
ゆのが倒れたことなどなんとも思っていないようなカルディアの口ぶりに、オズヴェルドの怒りは頂点に達した。
「今すぐここを出ていけ!」
いつものような甘いチョコレート色の瞳ではない。
「・・・オズヴェルド様? 私はキッシュ家の一人娘なのですよ? ・・・王族とはいえ、無下にはできないでしょう?」
カルディアの黄色の瞳が妖しく光った。
クロヴァローゼ国は、クロヴァローゼ王家の男が代々君臨してきた。
そのため圧倒的権力を持っているのはクロヴァローゼ王家だが、貴族の中でも、キッシュ家、アルフォード家、セルモン家の三家は、クロヴァローゼ王家が無視できないほどの権力を持っていた。
カルディアはそんなキッシュ家の一人娘。
もう何度もオズヴェルドにはカルディアとの縁談の話が舞い込んでいた。
無論、その度ごとに縁談を断ってきたのだが・・・。
今はカルディアがキッシュ家だろうとなんだろうと関係ない。
「聞こえないのか? 早く出ていけと言ったんだ」
チョコレート色の瞳は、カルディアを映そうともしない。
「・・・本日のこと、お父様にご報告させていただきますから」
そう言い捨てて、カルディアは部屋から出ていった。