ここで歌うは君がため〜交わされた約束〜

「それなら僕が練習に付き合ってあげるよ」


こんなに面白いんだから、これからもこの争いを近くで見ていたい。

そんな気持ちもあって、ハジはそう言った。



右手を差し出して微笑みを浮かべるハジをゆのは横目で見る。


「君はオズと踊るんだろう? 本番で君が失敗したら、オズが恥をかくぞ」


それは避けたい。ただでさえ偽りの側室なのだから、迷惑はかけたくない・・・。


「じゃあ、お願いします・・・」


嫌だと思う気持ちをしまって、ハジが差し出す手に掴まると、流れるようなステップに飲み込まれた。


私は男性と踊ったことはないけれど、きっとこの人は慣れてる。ターンもステップも苦にならない。導かれるまま自然に踊れてる。

背中を支える手や、軽く握られた手が触れ合っているのが少々不快ではあるが。



「・・・お上手なのね」

「それは光栄だな」


ダンスの流れの中で、ぐっと顔が近くなるときは、目線を逸らしてしまう。

ダンスだけでなく、この水色の瞳に捕まってはいけないような気がした。



オズの親友と言いながらも、一緒にいるところを見たことがない。

急に現れては、すぐに帰る。

何をしていて、何を考えているのか全く分からない。

ーーー別に知らなくてもいいんだけど。


初対面で手にキスをされたからだろうか?

日本の風習では、手にキスなんてする機会はない。

だから嫌だったとかではなくて。


手にキスという行為は、私のーーー





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