バニラ
「いいのに、
 寧ろ、
 嬉しいですから。」

「いっ……いっ、いえいえ
 気が動転したとはいえ、
 おお俺ったらっ
 や、私ときたら……」

どんなことにも慌てない
落ち着いた印象の和臣さんの
酷くうろたえて、恐縮する姿は、
今まで見た事もなく
それが、私に対してって事が、
嬉しくてたまらない。

「だから、いいんですって」

「あの。」

「連絡をくださった方ですね。
 お世話になりました。
 お礼は改めて伺います。」


「いえ、お礼なんて。
 友人の事ですし。」

「?友人?」

「そうなんです。高校の同級生だったんです。」

「そうですか。それはそれは。」

「僕は、こういうもので。」

武井君は笑顔で、名刺を渡した。

「小畑物産の食販エリアマネージャーですか。

 ……そうですか。


時間があるようでしたら家の店にもぜひお立ち寄りください。
美味しいコーヒーを入れて差し上げますよ」

ショップカードを渡して、丁寧なあいさつをしていたけれど、
一瞬、和臣さんの顔が曇ったような?
気のせいかな?

「立てますか?」

「はい。ちょっと貧血気味なんだと思うので。

 もう大丈夫です。

 ご迷惑をおかけしました。」

和臣さんに支えられながら、
立ち上がると、

武井君が思い出したように、
紙袋を差しだした。

「亜美ちゃん。これ、バニラオイル。」

「あ、そうだった。お金払ってない。」

「いいよ、店員が君を待たせたせいで、
 こんな事になったんだから、
 これはお詫びを兼ねて持って行って。」

「いえ、これは店で使うので、
 戴くわけにはいかないです。

 おいくらですか?」

私と武井君の間に入り、きっぱりと断った。

あまりに強い口調だったので、
私も武井君も驚いて和臣さんを見上げた。
















 



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