バニラ
さっき和臣さんが言いかけた言葉はもしかしたら……

それに武井君に焼もち妬いてた?

ダメかな、期待しちゃったら。

だってなんだか、夢みたいに幸せで、
ほんのちょっぴり未来に期待しちゃう。

手のひらにある炭酸が、
ぷつぷつと弾けながら

ドキドキする気持ちを後押しする。

「和臣さん。あの人、武井君て言うんです。
 だから名前で呼んでるんだと思います。
 あそこで会ったのは偶然で、
 卒業して初めて会ったんです。」

「じゃあ……」

「はい。別に付き合ってませんし、
 これから会う事も多分ないです。」

「そうだったんですか。」

なんだか嬉しそうに笑うので、
私の期待は更にむくむくと膨らんでしまう。


「それから、

 あのお店に行ったのは、
 このバニラオイルが売ってなかったせいですから。」


「バニラオイルなんて、どんなのでもよかったのに。」

「何言ってるんですか、
 拘って使ってるの知ってるんですから。」

「はは、まあそうなんですけど、
 2~3日中には注文したのが届くので、
 今日のは保険的に欲しかっただけなので、
 普通ので構わなかったんですよ。」

「ええっ
 そ、それならそうと言ってくれれば
 こんな遠くに来ることなかったし、
 倒れることなくても済んだかもしれないのに。」

「なかった時点で、電話で確認してくれても良かったんですよ?」

「あ、ほんとだ。」

ふふっ

和臣さんは気が抜けたように笑った。

「私達は、ちょっとお互い言葉が足りないようですね。」

「ほんとに……」

顔を見合わせてくすくすと笑った。

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