バニラ
「さて、行きましょうか?」

一頻り笑った後、和臣さんが立ちあがった。

「あ、バニラ。」

「え?」

「さっきからいい匂いがするって思ってたけど、
 亜美ちゃんの体、バニラの香りがするんだ。」

「え?

 なんでだろう?」

くんくんっ
と、匂いをかぐと、
いつも使うあの濃厚なバニラの香りがした。

ああ、そういえば、

気を失う前に聞いたあの割れる音は、
私、あの時バニラオイルの瓶受け取り損ねてを割ってしまったのかも。

だとしたら、あのお店の人に悪いことしちゃったな。

あとで、謝りに行かなきゃな。



「……ごめんっ!」



なぜか赤くなってる和臣さん。

「え?どうして謝るんですか?」

「嫌だったよね?亜美ちゃんって呼んだこと。」

「え?いやあ、そういえば。」

「それに、匂いとか、セクハラだよね。」

そっか、
私が一瞬黙り込んだこと、

気分をがいしたと思ったのかな?


「全然気にしてませんからそれに

 名前で呼んでもらうのはむしろうれしいですし。」

「じゃあ、遠慮なく。

 亜美ちゃん、

 今頃店がどうなってるかちょっと心配になった。

 はは、徹さん、困ってるだろうな。

 急いで帰ろう?」


「はい。」

差しだされた和臣さんの右手をとって立ち上がった。




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