くろねことわたし
そう聞いてみると、彼は悲しそうな顔をした。
「忘れちゃったよ」
彼はそう言った。
そして、遠くを見て
せつなそうに、語り出した。
「俺、この世界が嫌いなんだよね、人間が嫌い。人に好かれようと必死にいい人演じて、だれかにしがみつくようにしてなきゃいけない人生なんて、破滅してしまえばいいんだ」
怒りが込められているようだった。
言い終わると彼はその場にしゃがみこんでしまった。
わたしはなんて声をかけていいかわからなかった。
でも、なんだかわたしと同じような考えを持っている気がした。
近づいて、そっと手を差し延べると、彼はわたしを見上げ、大丈夫だ、と促され、立ち上がった。
「ごめんね、急に、俺のことは忘れて」
そう言うと悲しそうな顔優しく微笑んだ。
彼はわたしの家とは反対方向に歩き出した。