危険なアイツと同居生活









「ツアーまでに、新曲を完成させないといけないんだ」




蒼はあたしの隣に横になり、あたしはその胸に頬を付けた。

温かい蒼の体温に触れて、そこから離れられなくなる。




「手荒れ。

また酷くなっちゃった」




そう言って目の前に差し出された手を見て、あたしの胸はどきんとする。

蒼の手はガサガサで。

硬くなった指の腹には血が滲んでいる。

昼はスタジオで、夕方から夜は蒼の部屋で、文字通り血の滲むような努力をしているんだ。

こんな努力家の蒼を、心の中から尊敬する。






「ツアーね、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡を回るんだ。

だから、唯ちゃんに会えなくなるね」





すごく寂しい。

遠い存在だと思いながらも、蒼はいつも隣にいてくれたから。

蒼のいないこの部屋は、きっと寒くて虚しいよ。





行かないで、と、わがままを言いたい。

だけど、それは出来ない。

あたしも、強い大人にならなきゃ。




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