新宿のデカ
 普段、庶務ばかりである。


 刑事課でも、樋井が課長席に座っているのだが、ずっと難しい顔をしていた。


 樋井は警視庁に戻りたいのである。


 あの六年前の失態さえなければ、上のポストまで行けたのに。


 二〇〇八年の新宿ビル不法占拠事件は、それだけ余波が大きかった。


 一人のキャリア警官を所轄に押し込めるに十分だったのである。


 人質で撃たれた安東の遺族は、ずっと樋井を恨んでいるのだ。


 いくら誤射とはいえ。


 それに樋井は課長席にいても、仕事はそう回ってこない。


 俺も思う。


 所轄の刑事課長というのは、暇な人間なんだなと。


 まあ、別に面と向かって口に出すことはなかったのだが……。


 木曜の午後、銃を持ち、射撃訓練場へ向かった。
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