新宿のデカ
 気にすることもたくさんあった。


 今の所轄での待遇にも若干不満を覚えていたのだから……。


 だが、警視庁に戻りたいという願望は現段階ではない。


 所轄の方が気が楽だった。


 俺にとって、警視庁二課時代のことはトラウマになっていたのである。


 まるで刺さった棘のように。


 やっとあの頃のことを忘れられようとしていた。


 ずっと選挙違反や知能犯などを相手に、縦横無尽に動いていたのである。


 今は違う。


 <所轄の刑事さん>で、凄惨な場に出くわすことも早々ないだろうと思っていた。


 警視庁広域指定七×二事件で、未だに一課のデカたちは羽野和夫や衛藤稀人の身柄を追っている。


 片付かないのだった。
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