管狐物語
目の前に、先ほど転がっていた狐のぬいぐるみが、にこにこ笑顔で、桜に微笑みかけながら、桜の膝に手を置いていた。
その狐のぬいぐるみは、少し年をとっているように見えた。
桜はガチガチに固まって、思考が一気に止まる…。
「………」
狐のぬいぐるみは、にっこりと笑い、礼儀正しく、桜に話しかけた。
「姫様。お初にお目にかかります。
私、次郎と申します」
ぺこりと可愛くお辞儀をして、その狐のぬいぐるみは、話を続ける。
「我ら管狐、今日から、姫様をお守り致します。
これからどうぞ、よろしくお願いしますね」
少ししゃがれたその声は、優しく響き、人の心に柔らかく入っていく。
桜はその声で、少し現実に引き戻され、少しだけ考える余地が出てきた。
…えっと…
なに?…ヒメサマ?
…クダギツネ?
一気に言われた言葉を整理するのに、まだかなりの時間が必要そうだが…
「姫様?
どうかされましたか?」
きょとんとした様子で、初老の狐が桜を見上げる。
桜は、叫びたいような、色々聞きたいような、ごちゃごちゃな頭の中で、言葉を発することができなくて、魚みたいに、口をパクパクさせた。
すると、後ろで……
「わーー!
ちょっと、どういう事⁈
狐のまんまって、何で⁈」
次郎の声とは違う、若く、どことなくキツイ声がした。
「騒ぐなよ…火影…。
今回の主は、妖力が少ないみたいだな。
俺も狐のまんまだ…」
次に、人を魅了するような、甘く低い声が響き、桜は反射的に声のする方に、顔を向けた。