管狐物語
「我ら管狐は、昔から、飯塚家に仕えるものです。
飯塚家の中に、我らの封印を解く事ができる妖力の強い方が、我らの主人となります。
……ただし、そうそう妖力の強い方が、産まれる訳はなく、我ら5匹の封印を解く事のできるお方は、ほとんどいません…」
次郎は、なぜか悲しそうな顔をした。
すると、さっきまで火影を羽交い締めにしていた一匹…炎が、ぴょこんと次郎の横に並んだ。
「だからさ!桜は、ホントすげぇんだよ!
俺たち5匹の封印解ける奴なんて、ほとんどいねぇんだから!
200年ぶりぐらいだよ!」
頬を上気させて、桜に微笑む。
それが可愛くて、桜もやっと言葉が出せるようになった。
「でっ、でも、私は力なんて何もない…です…。
未来が見えた事もないし、特別な事は、何も……」
おばあちゃんには、不思議な力があった。
でも、管狐に会えた事はなかったと言っていた…。
事、自分に関しては、今の今まで不思議な力を発揮出来た事は、一度だってない…。
ふんっと鼻で笑い、馬鹿にしたように不思議な毛色だった管狐が、桜を見もせずに、話す。
「俺達の封印を解くぐらいは、他にやった人間がいる。
こいつが始めてじゃねぇだろ。
それに、解いたといっても、狐の状態しか維持できねぇ妖力のご主人様だ。
たかが、知れてる」
ボロクソに言われた桜は、少しムッとする。
まだ、何が何だか分からない状態なのに、とんだ嫌われようだ。
そりゃあ、力がないのは本当だけど…
「ホント、焰(ほむら)の言う通りだよね。
妖力のない主ほど、たちが悪いものはないからね〜。
全く、これまでそんな人間にどれだけ迷惑かけられたか!」
苦々しく、火影が言う。
「やめなさい!焰、火影!
まだ、話の途中です!」
次郎は、2匹に一喝して、小さい手で、こめかみあたりを触る。
「…全く、あなた達を宥めるのも、毎回大変なんですから…。
少しは黙ってられないんですか?」
「はいは〜い。
もう邪魔しないよ」
「………」
2匹は黙り、次郎はまた、ため息一つ、桜に向き直る。
「…あの、私の妖力?で、その、あなた達の力も決まってしまうんですか?」
焰と火影の話を聞く限り、管狐の妖力は、主の妖力に比例するように聞こえた。
次郎は、言いにくそうに、桜を見た。
「…はい。
我らの全ては、使役するご主人様で決まります…」
「じゃあ、本当は封印が解けたら、人間化してるのは、普通なの?」
「普通という事はありません!」
次郎は、慌てたように手をわたわたさせる。
「先程も言いましたが、5匹全部の封印を解ける方も、ほとんどいなかったのです。
だから姫は、少なからず、強い妖力をお持ちだと思います。
今はまだ、目覚めていなくとも…」