管狐物語
すると突然…
「いってぇ‼︎」
ばしん!と何かをたたく音がして、炎が前のめりに、うずくまる。
「こら。
何、2人の世界つくってんだ、炎」
炎の後ろには、整った顔立ちの色気がある男が、にやにやしながら、かがんでいた。
少しだけ長い髪が、その男には似合っていて、身体もしなやかに筋肉がついていて、男の人!という感じで、どきっとしてしまう…。
何よりも……
ー なんて、甘い声なの…
声を聞くだけで、ぞくぞくする感じに、桜は自分の両腕を抱く。
「いってぇな!背中思いっきり叩くなよ!
烈さん、力あんだからさ!」
炎は、背中を届く範囲でさすりながら、涙目で、後ろにいる烈に顔を向ける。
「桜を起こしに行った焰が、機嫌悪そうに戻ってきたと思えば、それを確認しに行ったお前が、戻ってこねぇからだろうが!」
烈は言いながら、炎の頭をぱんっと軽くはたいて、桜に笑いかけた。
…うっ…かっこいい…
施設でも、こんな田舎でも見たことのない、いわゆるイケメンに桜はどうしていいか分からなくなる…。
「桜、目ぇ覚めたか。
炎に変なことされなかったか?」
「えっ!
変なことって、どんな…」
「だーーー‼︎
ちょっと烈さん、何言ってんだよ‼︎
俺が桜を襲うわけねぇだろ‼︎」
炎が顔を真っ赤にして、烈にわめく。
「なんだ。
襲う気だったのか」
「っ‼︎ ///
だから‼︎なんでそうなるんだよ‼︎
烈さんじゃあるまいし‼︎」
桜もやっと「変なこと」の意味が分かって、顔を真っ赤にした。
あははと声を上げて、烈が笑った。
「冗談だよ、冗談!
ほんっと、変わんねぇな、お前は!
可愛いね〜」
可愛いと言われた炎は、言い返す言葉もなく、顔を赤くしながら、口をぱくぱくさせた。
烈は、そんな炎を笑いながら、顔を赤くしている桜に近づく。
どきっとして、桜は布団の上で動くことができない。
「自己紹介まだだったよな。
俺は、烈。
これから、よろしくな。
お姫様」
烈はそう言うと、桜の頬を優しく自然に触れた。
「っ‼︎」
あまりにも自然過ぎたが、甘い声と大人の色気に、心臓がうるさく高鳴る。
「っ‼︎
何してんだよ!」
2人の間に、炎が割って入る。
「きゃ!」
「おっと。
別に挨拶しただけだろ。
ムキになんな、炎」
烈は、両手を上げて炎ににやっと、笑った。
炎は、桜の腕を掴み
「桜!
烈さんには、あんまり近づくなよ!
何されるか、分かったもんじゃねぇ!」
「え?え?」
「おいおい、変な言い方すんなよ。
…っと。
早く広間に桜連れて行かねぇと、次郎さんにどやされるぞ」
桜は、炎に腕を掴まれたまま、聞いた。
「広間…ですか?」
「ああ。
これから、俺達はここで世話になるから、みんなで飯食うんだとさ。
さ!質問は、ここまで!
さっさと広間行くぞ」
烈は、桜の手をぐっと引いて、立たせて歩き出す。
「あ!あの!」
困惑する桜をよそに、烈は大きな手で桜の手を握り、ぐんぐん引っ張っていく。
「ちょ!
烈さん、待てよ!」
遅れて、炎も後ろから、追いかけるのだった…。