管狐物語
広間に向かう途中から、鼻をくすぐるいい香りがしてきた。
桜はお昼もまだだったので、お腹がすいていることに気づいた。
「うわ!
うまそうな匂い!」
歩きながら、炎が嬉しそうな声を出す。
「次郎さん、張り切って作る!って言ってたからな。
この時代は、食材も豊富らしい」
「え?マジで⁈
芋とか魚だけじゃねぇの?
山菜とか!」
ぷっと烈が吹き出す。
「お前、山菜好きだったもんな〜」
「あんなうまいもん、ねぇよ!
あ〜、楽しみだな〜。
山菜以上のもんて、どんなだろな」
うっとりしながら言う炎を見て、桜はクスクスと笑った。
ーやっぱり、炎くんて可愛い感じ
「よし!着いた!」
障子戸を開き、烈が中にいる数人に声をかける。
「待たせて悪かった。
今、桜連れて来たぞ」
「遅いよ!
何してたの?」
「悪ぃ、悪ぃ。
焰と代わって、桜を起こしに行った炎が、桜といいムードつくってて、入っていけなかったんだよ」
烈はそう言いながら、空いている座布団にどかっと座った。
「な、な、な、何言ってんだよ‼︎
俺はただ、焰の代わりに桜起こしただけでっ!」
「…ふぅ〜ん。
やるね、炎」
「だから‼︎
変に勘ぐるな‼︎ 火影‼︎」
炎はまた真っ赤になりながら、自分も空いている座布団に座った。
火影と呼ばれた男は、綺麗な顔立ちをしていた。
しかし、決して女性的ではなく、端正に整った顔立ちは、男の色気がある。
火影は、桜が見つめていたのが分かったのか、口の端だけで笑う。
それはなぜか妖艶で、ぞくっとした。
「何、突っ立ってんの? 桜ちゃん。
君をずっと待ってたんだから、これ以上待たせないでよ」
火影の口元は微笑んでいるのに、目は完全に笑っていなかった。
桜は、急いで自分も、空いている座布団に正座する。
…この人、怖い…
「火影!
そんな言い方ねぇだろうが!」
正面に座っていた炎は、火影にくってかかる。
「僕は、炎みたいにすぐ主とは認めないの。
どんな子かも分かんないのに、良く優しくできるね」
火影は、冷静に炎を一蹴し、笑った。
「っ!
あのなぁ!」
「やめろ、炎。
口でこいつには、敵わねぇだろ」
烈は、近くにあった酒の入った徳利で、手酌を始めながら言った。
桜は肩身が狭くて、隅っこで、小さく正座をしていた。
…お腹空いてたの、もう忘れちゃったよ
こんな妖軍団の中で、ご飯を食べられる気がしなかった。