管狐物語
桜は、縁側に腰掛けたまま、学校から帰って来てすぐ、一緒に住んでいる祖母から言われた言葉を思い出していた。
………
「桜、おかえり。
宿題出されたんだろ?」
腰の曲がった祖母は、顔中をくしゃくしゃにして、玄関に立っていた桜に笑いかけた。
いつもの、桜が好きな優しい祖母の笑顔だ。
「うん」
コクンと桜は頷いた。
大好きなおばあちゃんの笑顔が、今は辛い…
ぎゅっとランドセルの取手を掴み、祖母の顔を見ないように、下を向いた。
「…何かあったんかい?」
祖母は微笑みかけたまま、玄関に立ちつくしている、桜に問いかけた。
昔ながらの家なので、敷居が高く、俯いた桜の顔は祖母から全く見えない。
近頃の桜は、学校に行くのもしぶしぶで、帰って来ても笑顔を見せなくなっていた。
祖母はゆっくり返事を待ったが、桜は話すつもりがないようで、黙ったままだった。
それでも祖母は問い詰めることもせず、また桜に微笑んだ。
「…宿題終わったら、婆ちゃんとお茶しないかい?
美味しいお菓子、あるんだよ」
桜は、ただコクンと頷いた…