管狐物語
焰が去った後、桜の身体の力は一気に抜け、廊下にへたり込んでしまった。
震えが止まらなくて、桜は自分を抱きしめるように腕を回す。
姿形は人間だったのに、焰からは妖の本性を見せられた気がした。
人を震え上がらせる妖力。
時には人を喰らうような妖…。
震えが止まらない…
怖い…
先程まで管狐といえど彼らに、こんな恐怖を感じた事はなかった。
妖と分かっていたつもりでいたが、人間のように思っていたのかもしれない…。
ー 違うんだ…
あのひと達は人間じゃない…
妖なんだ…
ざあっ…と木々が風に揺れる。
先程まで心地の良かった風が、桜を脅すように吹き荒れる。
あんなに綺麗だった月が、雲に覆われ、闇が桜を襲う。
穏やかだった気持ちが、恐怖に変わる…。
「あ…あ…っ」
桜は、叫びたくでも声も出ず、廊下を這いずるようにして、自分の部屋に行き、震える手を堪えるようにして、襖を開けた。
「…おばあちゃん…」
机の上に、祖母の写真が置いてある。
桜は腕を伸ばし、それを自分の胸に抱き込んだ。
自分はなんてものを、解いてしまったんだろう…。
「うっ…ひっ…く」
桜は写真を胸に抱いたまま、膝を抱えるようにして、声を殺して泣いた…。