管狐物語
「んで、そっちの状況は?」
「…ああ。
今日はこれぐらいでいいだろう」
「毎日、毎日、旦那の為とはいえ、俺達は良くやってるよな…」
ジンは、ため息をついて、煙管を咥えたまま立ち上がり、肩のコリをほぐす。
「さっさと旦那が力を取り戻して、今度こそあの馬鹿狐達をモノにしてやりてぇな」
「……」
「彼奴らも、目覚めたんだろ?
しっかし、同族の俺達より妖力を感じられねぇっていうのは、どういうことだろうな…」
「…今度の主は力がない者のようだな…。位置が感知できない…」
「なるほどな…。
彼奴らも苦労すんなぁ」
ジンは嫌味に声を上げて笑う。
同族とはいえ、管狐と自分達普通の妖狐では周りの扱いには差があった。
管狐はもてはやされ、力の無かった自分達がどれほど惨めな思いをしたことか…。
しかし旦那は力の無かった自分達に、力をくれた。
認め、生かしてくれた。
その旦那が欲してやまない管狐の力を、捧げることが、旦那に報いる事になる。
ジンはいつの間にか拳を強く握っている事に気付き、自嘲気味に口元で笑った。
いつもは能天気な自分が真面目な顔をしているのが、可笑しかった…。
「それじゃあま、帰るとしますか」
「…雅(みやび)はどうした…?」
「あん?
あいつなら、ある程度魂狩ったら、すぐに旦那んトコ帰ったぜ」
「…そうか…」
イチはやはり表情なく答えた。
ジンはククッと笑う。
「哀れな女だよな〜。
旦那が本気になるわけねぇのに、慕って、いいようにされて。
…ま、あいつはソレ分かってんだから、いいのか」
手の中にある小瓶の魂を、暗闇に掲げる。
さぁ、もうすぐだ…
もうすぐ、旦那が目覚める…
そして今度こそ、管狐の力を旦那に…
音もなく、彼らは闇に溶けるように、消えた…