管狐物語
「…おばあちゃん」
桜は、横に座る祖母が前よりもっと小さくなったような気がして、声をかけた。
私はおばあちゃんを傷付けてる…
祖母は、はっ、と我に返ったように、桜を見て微笑み、その手をゆっくりと握った。
「桜…。
これだけは、おばあちゃん言える事があるよ。
おばあちゃんは、桜に恥じることはしてないよ。
これだけは、信じて欲しい…」
ぎゅっと握られた手と、祖母の真剣な眼差しに、桜が先程思っていた気持ちが、どんなに最低な事だったかを思い知らせた。
嘘だと思いたかった。
でも、毎日のように友達に避けられる度に本当かもしれないと思ってしまった。
大好きな、たった一人の肉親である祖母を信じずに、真実を確かめもしないで、噂に翻弄された友達を信じたのだ…
桜の目から、ポロポロ涙が零れ落ちていく。
「っ…ごめっ…なさい…おばあちゃんっ
。私、おばあちゃんの事疑うような事言って…っ…ごめんなさい!」
「桜、いいんだよ」
祖母は、桜の手の甲を、ポンポンと叩き、にっこり微笑んだ。
先程、玄関で桜を迎えてくれたあの笑顔で。
「おばあちゃんこそ、ちゃんとこの話、してあげれば良かったね。
まだ桜に話すのは、早いかなと思って。
桜も、大きくなったんだもんね。
ごめんよ、桜」
桜は下を向いたままで、ポロポロ涙を零していた。
祖母の皺がたくさん入った手の上に、雫がポタポタ落ちていく…
「桜、友達に言ってやりな。
おばあちゃんが、桜を虐めたら許さないって言ってたって」
祖母は、桜の顔を皺の入った細い手で包んで目線を合わせ、あははと笑い声を上げた。
桜も、涙を零したまま、なんとか笑顔を見せた。
いつの間にか、日は暮れだし、夜の訪れを告げていた。
さっきまで、あんなに不安だった世界が、優しく色を変えたようだった。
風でたなびく木々の音、川が織り成すせせらぎ、星が一つ、また一つと増えていく神秘的な夜の空…
桜が大好きな優しい世界